在庫管理

生産ラインを安定させるためには、可能な限り過剰在庫や在庫不足を排除する「在庫管理」が必要。しかしながら在庫管理業務は、その難度の高さから一種の職人技とも言われ、現場によっては仕事内容を標準化することも難しい状況です。

これら在庫管理業務の大きな課題を前に、近年注目されているシステムがMES。MESとは、製造プロセスをリアルタイムで監視してデータを可視化させるシステムの総称で、監視内容には必然的に在庫状況も含まれる形となります。他のシステムと統合させれば、在庫状況に合わせて材料を自動発注・自動補充することも可能。人の手による労力やコストの大幅削減が実現するとともに、在庫管理に起因する業務ミスの撲滅も目指すことができます。

MESが提供する在庫管理のメリット

リアルタイムでの在庫情報の可視化

MESを稼働させることで、製造現場からの各種情報をリアルタイムで収集することが可能となります。

これら収集した情報内で材料不足や過剰在庫が検知されれば、MESは在庫管理部門へ自動的に警告を発信。担当者が適宜対応をすることで、常に適切な在庫量をキープできる仕組みとなります。

MESにより在庫管理の精度が上がれば、調達の無駄や遅延等を最小限に抑えられるための即時意思決定が可能となるでしょう。

在庫の精度向上と不良品の削減

MESを導入することで、バーコードやIoTデバイス等を通じた精度の高い在庫管理が可能となります。従来の手動入力に比べ、正確性の高い情報をリアルタイムで入手できることから、結果として意思決定の正確性やスピードにもつながります。

また、一般にMESには製造プロセスにおける不良品の早期発見システムも搭載されているため、システム上で検知された不良品が次工程に回されることはありません。不良品対応にかかる労力やコスト等の削減にも貢献します。

リードタイムの短縮と生産効率の向上

MESの導入によって生産サイクルの全体が統合化・可視化され、製品ごとの製造進捗状況をリアルタイムで把握できる仕組みが構築されます。その結果、各製品の製造工程間の待ち時間等を最小限に抑えることも可能となり、全体的なリードタイムの短縮に貢献。アイドリングの排除や人的資源の有効配分などにもつながり、企業全体の生産効率向上にもつながります。

MESによる在庫管理の具体的な機能

在庫トラッキングとロケーション管理

MESには在庫トラッキング機能が搭載されているため、製造工程における原材料や部品などの位置をリアルタイムで追跡・記録が可能。バーコード等によるスキャン機能もかけ合わせれば、入庫・移動・出庫の履歴を性格に記録できます。

また、MESにはロケーション管理機能も搭載されていることから、各製造工程における原材料や部品等の適切な供給・配置も実現可能。適材適所の迅速化や材料取り違え等によるタイムロス削減などにもつながります。

自動補充と注文管理

MESには在庫量をリアルタイムで監視する機能が搭載されていますが、ERPなどと連携させれば、あらかじめ設定された在庫量を下回った際に自動発注し、自動的に在庫を補充する機能を備えることもできます。

また、機械的に在庫量の不足を補充するだけではなく、需要予測データを活用することで、適正な材料がキープされるよう在庫管理プロセスを自動化することもできます。

かつては職人技とも言われた注文・補充管理ですが、現在ではMESがその多くを代替できるようになりました。

品質管理と在庫の保全

MESには在庫の品質管理機能も搭載されています。製造途中などで品質検査を行い、迅速に不良品を識別する機能です。不良品の識別機能のほかにも、在庫ごとの保管条件（温度・湿度など）に適した状態が維持されているかどうかをモニタリングする機能など、在庫の品質維持に役立つ様々な機能が備えられています。

これら各種の品質管理機能を駆使することで、在庫の劣化や損傷の抑制に貢献。仮に、出庫後の製品に問題が発見されたとしても、追跡機能を利用して問題の原因を速やかに特定できます。

MES導入による経済的な効果

コスト削減の可能性とROI（投資対効果）

MES導入により在庫管理の精度が向上すれば、過剰在庫を抱えたり欠品が生じたりする事態が大幅に抑えられるでしょう。また、MESがリアルタイムで在庫管理工程を監視することで、無駄な工程の排除から労働力の再分配も可能となります。これらの結果、在庫管理に関連する多くの部門でコスト削減が実現することでしょう。

MES導入後、定期的にROI（投資対効果）を測定すれば、導入によるコスト削減の効果を実感できるものと考えられます。

廃棄物の削減と環境への配慮

MESによる在庫管理で過剰在庫や不良品の件数が減少すれば、その分だけ現場からの廃棄物も減少します。資源の有効活用にも貢献するなど、SDGsの精神にもつながる大事な取り組みとなります。

また、MESのモニタリング機能によって資材やエネルギーの無駄を排除すれば、その分だけ二酸化炭素排出量の削減に貢献。環境に配慮した持続可能な製造現場が実現します。

実際の事例紹介

超硬ドリルの世界的メーカーとして知られるU社。ホストコンピュータに集約された製造装置の稼働状況をリアルタイムで把握できず、製造の遅延や製造装置の緊急停止等に気付かず予定の生産量を実現できないという課題がありました。

そこで同社は、設備の稼働状況や在庫状況をリアルタイムで把握できるMESを導入。在庫状況を表示するダッシュボード、生産計画に対する実績数値を表示するダッシュボードなどの多彩なダッシュボードを通じ、計画に従った安定的な生産体制を構築しました。

将来的には仕掛在庫の滞留状況を含めた各種領域の工程を全体的に可視化し、さらに管理の集中化を進めていきたいとのことです。

参照元：ウイングアーク1st株式会社公式HP（https://www.wingarc.com/product/usecase/188.html）

MES導入のステップと注意点

MES選定のポイントと導入手順

自社の業務プロセスや製造フロー全体に活用できる柔軟性の有無、ERPやSCMなど他システムとの統合性の高さ、リアルタイムのデータ収集能力や分析機能の有無、メーカーのサポート体制などを基準にMESの選定を行いましょう。

導入に際しては、自社の現状分析や導入目標の明確化、要件定義などを行った上で適切なベンダーを検討。最終的に絞り込んだベンダーと具体的な導入計画を立案し、テスト運用を経てMESを本稼働させます。

導入プロセスと並行し、MESを取り巻く従業員教育やトレーニング、意識改革等も必要になります。

よくある問題点とその対策

初めてMESを導入する企業から、MESのカスタマイズが複雑で導入コストが高くなってしまう、という悩みが聞かれることがあります。この点については、システムの導入前に業務プロセスの標準化を進めることがポイント。可能な限り業務プロセスの簡素化と統合を進めることで、MES導入におけるカスタマイズの範囲が縮小されます。

また、導入済みの既存システムとの統合が難しいという声も聞かれることがありますが、この点についてはベンダー選定時に既存システムとの統合性をよく確認することが大事。候補となるベンダー各社に既存システムをチェックしてもらい、予算も考慮しながら可能な限り統合性の高いシステムを選定しましょう。

まとめ

在庫管理におけるMESのメリットや機能、効果、事例、注意点などを解説しました。

製造現場での在庫管理において、リアルタイムでの在庫データの可視化や在庫の自動補充システムなどを実現するMESは、現場のコスト削減や生産性向上、ひいては競争力の強化に向けて欠かせないシステムになりつつあります。環境配慮型の運営にもつながることから、現代の社会的ニーズにもマッチした優れたシステムとなるでしょう。

現状の製造現場でも大変有効性の高いMESですが、将来の製造現場では更に精鋭化・応用化されたMESが登場するかもしれません。たとえば、サプライチェーン全体でMESシステムを連携させ、世界市場レベルでの在庫管理の最適化が図られる時代も訪れるでしょう。

MESの進化と合わせて自社の製造現場も進化させることが、今後の市場における自社の競争優位性の強化にもつながっていくのではないでしょうか。